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京都地方裁判所 昭和40年(わ)1209号 判決

主文

被告人小出至、同佐々木肇を各懲役四月に

同仲野弥寿治、同酒井忠一を各懲役三月に

同米川清吉を罰金八万円に

処する。

被告人米川清吉において右罰金を完納することができないときは、金二、〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人小出至、同佐々木肇、同仲野弥寿治、同酒井忠一に対し、この裁判が確定した日から三年間、その各刑の執行を猶予する。

押収してある清酒一・八リツトル入り瓶二本(昭和四一年押第一一九号の四)および空化粧箱一個(右同号の五)は、被告人米川清吉から没収する。

被告人米川清吉から金五万円を追徴する。

被告人米川清吉に対し、公職選挙法二五二条一項の規定による選挙権および被選挙権を有しない期間を二年に短縮する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人らは、いずれも昭和四〇年七月四日施行の参議院議員通常選挙に際し全国区から立候補した西村尚治の選挙運動者であつたものであるが、

第一  被告人小出至、同佐々木肇、同仲野弥寿治は平和新吉と共謀のうえ、前記西村尚治に当選を得しめる目的をもつて、同人の立候補届出前の昭和四〇年一月三〇日ごろ、京都府綾部市神宮町の大本教本部において、同本部参事である被告人米川清吉に対し、右西村尚治のため役票取りまとめ等の選挙運動を依頼し、その費用ならびに報酬として現金五万円を供与して立候補届出前の選挙運動をし

第二  被告人米川清吉は

一  第一記載の日時場所において前同様の趣旨で供与されるものであることを知りながら、被告人仲野らから現金五万円(昭和四一年押第一一九号の六の一部)の供与を受け

二  同年四月上旬ごろ、京都府綾部市上野町一六五番地の住居において、平和新吉から、同人が前記西村尚治に当選を得しめる目的で同人のため投票取りまとめ等の選挙運動を依頼し、その報酬として供与されるものであることを知りながら、清酒一・八リツトル入り瓶二本(時価一、四二〇円相当)(昭和四一年押第一一九の四、五)の供与を受け

第三  被告人小出至、同佐々木肇、同酒井忠一は共謀のうえ、前記西村尚治に当選を得しめる目的をもつて

一  同人の立候補届出前の同年四月三〇日ごろ、島根県益田市所在の天理教南本郷分教会において、安野高士に対し、第一記載と同趣旨のもとに現金二五、〇〇〇円を供与して立候補届出前の選挙運動をし

二  前記西村尚治の立候補届出前の同年五月一日ごろ、岡山市南方一丁目一番二三号の天理教作備分教会において、植田五郎に対し、前同様の趣旨のもとに現金二五、〇〇〇円を供与して立候補届出前の選挙運動をし

三  前記西村尚治の立候補届出前の同年五月二日ごろ、神戸市灘区上野已起四五〇番地の天理教兵庫教務支庁において、十倉一雄に対し、前同様の趣旨のもとに現金二五、〇〇〇円を供与して立候補届出前の選挙運動をし

四  前記西村尚治の立候補届出前の同年五月四日ごろ、山口県岩国市麻里布町一九の二九番地天理教周東大教会において、弘長義誠に対し、前同様の趣旨のもとに現金二五、〇〇〇円を供与して立候補届出前の選挙運動をし

第四  被告人小出至、同佐々木肇は、竹内登と共謀のうえ、同年六月一一日ごろ、大阪市東区今橋一丁目一〇番地今橋クラブにおいて、被告人仲野弥寿治ら五名に対し「参議院全国区自民党公認西村尚治」と印刷した選挙用ポスターで中央選挙管理委員会の証紙の貼付されるものに同証紙の貼付されないもの約一六〇枚を混ぜて配布し、もつて法定外文書を頒布し

第五  被告人仲野弥寿治は

一  前記西村尚治に当選を得しめる目的をもつて、同人の立候補届出前の同年五月一日ごろ、京都府綾部市田町の料理旅館小西屋において、吉田五郎ら四名に対し、「西村尚治後援会趣意書」と印刷した短冊型ビラ約九八〇枚を、選挙人多数への配布方を依頼して手交して立候補届出前の選挙運動をし

二  同年六月一二日ごろ、前記小西屋において、前記吉田五郎ら六名に対し、「参議院全国区自民党公認西村尚治」と印刷した選挙用ポスターで中央選挙管理委員会の証紙の貼付されるもの多数に同証紙の貼付されない約二〇枚を混ぜて配布し、もつて法定外文書を頒布し

たものである。

(証拠の標目)(省略)

(弁護人の主張に対する判断)

一  まず、弁護人は、判示第一、第二の一の現金五万円について、これは判示西村尚治のための選挙の投票取りまとめ等の選挙運動依頼の費用ならびに報酬としてでなく判示大本教本部における出口栄二夫妻から受けた歓待に報いるとともに節分大祭に健康と繁栄を祈願するための同本部に対する「お供え」として授受されたものであると主張する。よつて以下考える。すなわち、被告人小出、同佐々木、同仲野の判示第一事実、同米川の判示第二の一の事実についての公判廷における各供述は同被告人らの右当該事実についての検察官に対する各供述調書と相反する点があるが、公判廷において取調べた関係証拠を検討しても、右各供述調書の任意性について疑わしいふしはなく、金員授受の趣旨に関する供述も詳細かつ具体的で不自然なところがなく、同被告人らの公判廷における各供述の不合理ないし矛盾のある内容に比し十分信用できる。もつとも関係証拠によると、被告人米川は判示第二の一の現金五万円受領後約半歳を経て大本教本部会計から立替金名目で現金五万円を借用したこと、しかし右各現金合計一〇万円のうち三万円を自己の用途に供し残七万円のうち五万円を捜査官によつて押収されたことおよび右事実は同被告人の当公判廷における供述とほぼ符合することが認められ、弁護人は右のことから同被告人の右供述はすべて十分信用し得ると主張するけれども、もし右現金が弁護人主張のように純粋な「お供え」として授受されたのであれば速やかに大本教本部会計に納入された筈であるのに、関係証拠を精査検討するもそのような事実があつたことをうかがわせるに足る資料がないばかりか、右認定のように同被告人は右受領の現金五万円の殆んどを捜査官によつて押収されるまでの間約半歳にわたつてみずから保管していたのであり、かつ右証拠によると、右受領の現金五万円は、純粋な「お供え」というには多額にすぎるし、西村尚治推せんを依頼する趣旨で授受されたことが認められる。そうだとすると、右現金は、弁護人主張のように純粋な「お供え」として授受されたものであるとはとうていいい難いのであつて、西村尚治のための選挙の投票取りまとめ等の選挙運動依頼の費用ならびに報酬であるというほかはない。ちなみに、たとい「お供え」という金員であつても、これが神仏に対する純粋な「お供え」でなく、神仏に仕える者個人に対する選挙運動等依頼の費用ならびに報酬である場合、右の者個人であるといえども選挙人であり、かつ法定の除外事由がない限り選挙運動をもなし得る以上、これが授受は公職選挙法二二一条一項一号あるいは四号の規定によつて禁止処罰されるものであることはいうまでもない。よつて右弁護人の主張はとうてい採用し難い。

二  つぎに弁護人は、判示第三の一、二、三、四の各現金について、これらはいずれも天理教本部の西村尚治推せんに伴い天理教分教会等に同人のために代参した際における同分教会等自体に対する「お供え」であつて同分教会長等個人に対する西村尚治のための選挙の投票取りまとめ等の選挙運動依頼の費用ならびに報酬でないと主張するので以下判断する。すなわち、一において説示したところと同様の理由によつて前掲関係被告人らの供述調書中金員供与の趣旨に関する供述は十分に信用できる。たとい「お供え」という金員であつても、これが選挙候補者推せんに伴つて授受される以上、受領者が神仏に仕える者であつて右の者個人であるといえども選挙人であり、かつ法定の除外事由がない限り選挙運動をもなし得るのであるから、右金員は右個人に対する選挙運動等依頼の費用ならびに報酬であることを認めるになんら妨げはなく、これが供与は公職選挙法二二一条一項一号の規定によつて禁止処罰されるものというほかはない。よつて右弁護人の主張はとうてい採用し難い。

三  また、弁護人は、判示第四、第五の二の各無証紙ポスターについて、これらは法定の数に相当する証紙数をこえる数に相当するが、予備用または室内掲示用として配布されたのであつて、西村尚治の選挙当選を得しめる目的のためにする公職選挙法一四二条に違反する文書でないばかりでなく、右配布は他のポスターにもいまだ証紙が貼付されていない時期に行なわれたのであるから、本件当時いまだ無証紙ポスターの存在は特定されていなかつたのであつて、右配布はポスター掲示に関する選挙運動者間の準備行為にすぎないというべく、したがつて法定外文書頒布罪は成立しないと主張する。よつて以下考える。すなわち、公職選挙法一四二条にいう頒布とは、選挙運動のために使用する文書図画を不特定または多数人に対して配布することをいうのであるが、たとい配布を受けた者が特定人にすぎない場合であつても、その者を通じて当然もしくは不特定または多数人に配布されるべき情況のもとに右文書図画を配布したときは、右頒布にあたると解すべきところ、これを本件についてみるに、前掲関係証拠によると、なるほど判示無証紙ポスターは証紙貼付ポスター汚損に備える予備用として、または配布を受けた特定郵便局長らの管理する建物内に掲示するためのものとして配布されたとはいえ、同人らを通じて同人ら以外の不特定多数の郵政職員に配布されるべき状況におかれたことが認められるから、右配布は前記一四二条にいう頒布にあたり、公職選挙法二四三条三号によつて処罰されるものと解せられるし、また前掲関係証拠によると、なるほど本件頒布は、いまだ証紙がその数に相当するポスターと右数をこえる数のポスターおよび右証紙が同一機会に配布される形式をもつて行なわれ、無証紙ポスターはいまだ個々的に特定されていなかつたことが認められるけれども、右頒布を受けた者らがいずれも法定外文書頒布罪の共謀者であると認めるに足る資料はないから、右配布は、無証紙ポスター頒布罪の共謀者間において適宣分配されたものとはとうてい認められず、したがつてポスター掲示に関する選挙運動者間の準備行為にすぎないものであるとは解されない。なお、弁護人は、関係被告人らにおいて前記法条によつて禁止処罰される頒布の犯意を有しなかつたものであると主張するけれども、前掲関係証拠とくに証人桐谷良平の当公判廷における供述にてらしても、とうてい右被告人らにおいて右犯意を有しなかつたものであるとはとうてい認められない。よつて右弁護人の主張はいずれも採用し難い。

(法令の適用)

判示第一、第三の一、二、三、四の各所為に対し公職選挙法二二一条一項一号、一二九条、二三九条一号、刑法六〇条、五四条一項前段、一〇条(刑が重い公職選挙法二二一条一項一号の規定する罪の刑に従い、所定刑中懲役刑選択)

判示第二の一、二の各所為に対し公職選挙法二二一条一項四号(情状により所定刑中罰金刑選択)

判示第四、第五の二の各所為に対し公職選挙法二四三条三号、一四二条一項二号(判示第五の所為に対しさらに刑法六〇条)

(所定刑中禁錮刑選択)

判示第五の一の所為に対し公職選挙法一二九条、二三九条一号(所定刑中禁錮刑選択)

被告人らの以上の罪に対し刑法四五条前段

被告人小出、同佐々木、同仲野、同酒井に対し刑法四七条本文、但書、一〇条(被告人小出、同佐々木、同仲野につき最も刑ならびに情が重い判示第一の罪の刑に、同酒井につき最も刑ならびに情が重い判示第三の一の罪の刑にそれぞれ加重)

被告人米川に対し刑法四八条二項

被告人小出、同佐々木、同仲野、同酒井に対する刑の執行猶予につき刑法二五条

被告人米川に対する罰金不完納の場合の労役場留置につき刑法一八条

被告人米川に対する没収につき公職選挙法二二四条前段、追徴につき同条後段

被告人米川に対する選挙権および被選挙権停止期間の短縮につき公職選挙法二五二条四項一項

被告人らに対する訴訟費用非負担につき刑事訴訟法一八一条一項但書

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